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横浜地方裁判所 平成7年(行ウ)3号 判決

原告

永井清治(X)

被告

(綾瀬市長) 見上和由(Y1)

(綾瀬市議会議長) 見上喜良(Y2)

右両名訴訟代理人弁護士

土赤弘子

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  被告見上喜良の被告適格の有無について

被告見上喜良が法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に当たるかにつき判断するに、「当該職員」とは、財務会計上の行為を行う権限を法令上有するとされる者及びその者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者をいうと解されるところ、地方自治法上、普通地方公共団体の議会の議長は、予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務を行う権限を有せず、普通地方公共団体の長が支出負担行為等の予算執行に関する事務の権限を委任する相手方としても予定されていない。〔証拠略〕によれば、被告見上喜良が、本件海外及び国内視察の旅行命令簿に議長名で押印していることが認められるが、これは、予算の支出権限に基づくものではなく、法一〇四条の定める議長の統理権に基づくものと解される。また、本件公金支出について、市長の有する予算執行に関する権限が議長に委任されていたとみるべき根拠も存在しないから、被告見上喜良は、法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」には該当しないものというべきである。

しかし、原告は、被告見上喜良に対し、予備的に、法二四二条の二第一項後段に基づく代位請求をしており、その請求との関係では、被告見上喜良は怠る事実の相手方として被告適格を有するものというべきであるから、被告見上喜良には被告適格がない旨の被告らの主張は理由がない。

二  監査請求期間徒過の有無について

本件海外視察について、交通費等一万三九五〇円が平成五年一〇月一日に、負担金四六万五〇〇〇円が同月五日にそれぞれ資金前渡され、同月一八日、日当、支度料九万円が概算払により、打合せ金及び交通費三八二〇円が議員費用弁償により支払われたことは前記認定のとおりである。

右公金支出のうち、打合せ金及び交通費三八二〇円については、議員費用弁償により現に支出がされた平成五年一〇月一八日が、法二四二条二項の「当該行為のあった日」に該当することは明らかである。

また、資金前渡及び概算払にかかる支出については、右支出方法がいずれも法二三二条の五第二項により正規の公金支出の一態様とされるものであるところ、〔証拠略〕によれば、本件海外視察に関する公金支出は、前記資金前渡及び概算払がされた時点で、支出の目的及び支出金額が明確となっていることが認められるから、本件公金支出の違法性・不当性は、精算手続の終了を待つまでもなく、右資金前渡及び概算払の時点で判断しうるというべきである。したがって、右資金前渡及び概算払がされた日を「当該行為のあった日」と解すべきである。原告は、右監査請求の期間は、本件海外視察の終った日である平成五年一〇月二九日の翌日から起算すべきであるかのような主張をするが、右視察自体は財務会計行為に当たらないことが明らかであるから、その主張自体理由がない。また、原告は、交通費等については、精算手続の終了した平成五年一一月八日の、負担金、日当及び支度料については同様に精算手続の終了した同月一日の、それぞれ翌日から起算すべきである旨主張するが、前述のような理由から、採用することができない。なお、原告は、この点につき、精算手続自体の違法性を問題にしているかのような主張もするが、原告の主張は、前記のとおり、本件海外視察に関する経費の支出の違法をいうにすぎず、右の点については、何ら具体的な主張もないから、右の主張は、理由がない。

そして、原告の監査請求が以上いずれかの日からも一年を経過した平成六年一〇月二〇日にされたことは前記のとおりである。そして、原告が監査請求期間を徒過したことに正当の理由があることについては何ら具体的な主張立証もないから、法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に当たる被告見上和由に対する本件訴えのうち、本件海外視察の費用相当額五七万二七七〇円の返を求める部分は、却下を免れない。

三  本件行政視察の違法性の有無について

1  原告は、本件行政視察が議会閉会中の議員派遣であることから、これにつき本会議の議決を要すべきところ、本件行政視察は、いずれも、右議決を欠き、違法である旨主張する。

しかし、普通地方公共団体の議会が議員を国内外に派遣する場合、予算を伴うものであるから、その議決を要すべきことはいうまでもないが、〔証拠略〕によれば、本件行政規察は、いずれも、平成五年度議会費予算見積書の歳出項目とされ、平成四年一一月二四日の議会運営委員会で審議され、同年度の一般会計予算に計上することの承認を経ており、右予算案は同年一二月一八日の議会全員協議会に報告されていること、また、本件国内視察については、平成五年度議会事業計画の一項目として平成五年三月一二日の議会運営委員会に付議され、その承認を得ており、同月二二日の議会全員協議会に報告されたこと、前記一般会計予算は、平成五年三月二六日の本会議において原案どおり可決されたことが認められる。

右事実によれば、本件行政視察は、本会議において、その実施に関し個別的な議決を経ていないものの、平成五年度議会費予算の歳出項目とすることについて、議会運営委員会、同全員協議会の審議を経ており、当該予算案は、本会議で可決されているのであるから、実質上議会の承認を経たものと認めるのが相当である。したがって、原告の主張は理由がない。

2  また、原告は、本件海外視察が、真摯な行政視察を目的とするものではなく、その実体は観光旅行であるなどと主張するが、〔証拠略〕によれば、綾瀬市は、昭和六三年から全国市議会議長会の主催する海外行政視察に参加しており、本件海外視察はその一環として同市の海外行政視察派遣要綱に基づき行われたものであること、なお、この要綱には、原告主張のような規定があることが認められるが、右規定が違憲・違法であるとはいえず、また、本件海外視察の概要、視察日程等に照らしても、それが単なる観光目的の違法なものであるということはできない。

3  さらに原告は、綾瀬市の議会報編集委員会は法令の根拠を有しないものであるから、右委員会による議員派遣に公金を支出したことは違法である旨主張する。

〔証拠略〕によれば、綾瀬市の議会報編集委員会は、昭和四八年から同委員会の名称で議会を発行し、本件国内視察も、平成五年から委員会による委員派遣の形式に従って行われ、議員費用弁償条例により、その費用が支払われているが、同委員会は、法一〇九条、一一〇条に基づき綾瀬市議会委員会条例が定める常任委員会、特別委員会のいずれかにも該当しないことが認められる。しかしながら、普通地方公共団体の議会の行う行政視察を、前記法及び条例上の委員会による議員派遣に限定すべき理由はなく、議会は、議員の職務に関し合理的な必要がある場合には、その裁量により、調査、研修等の目的で、議員を国内の他の地域に派遣することができると解される。そして、議会報の発行により議会の活動内容を広く住民に知らせることは、議員の職務に属すると解され、また、〔証拠略〕によれば、本件国内視察は、議会報の編集を担当する八名の議員を、調査、研修の目的で、議会報編集に関し全国的な実績を有する宮城県鹿島台町に派遣したものであることが認められる。そうすると、本件国内視察は、議会による適法な議員派遣に該当するものといえ、右視察が前記法令上の根拠を有する委員会による委員派遣の形式により行われたからといって、これに対する公金支出が違法であるということはできない。

四  結論

以上のとおり、原告の被告見上和由に対する訴えのうち、本件海外視察の費用相当額五七万二七七〇円の支払を求める部分は不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求は、被告見上喜良を怠る事実の相手方であるとする部分を含め、その前提となる公金の支出に違法な点は認められず、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)

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